なぜ、男たちは再び「厚底」に惹かれるのか?
スニーカーの世界には、時代と共に繰り返される大きな波があります。そして今、メンズファッションシーンに再び大きな波として押し寄せているのが、確かな存在感を放つ「厚底スニーカー」です。
かつて90年代にストリートを席巻したこのスタイルは、単なる懐古主義ではありません。現代のテクノロジーとデザイン哲学によって再解釈され、ファッションアイテムとして、そして自己表現のツールとして、新たな価値をまとって帰ってきました。
この記事では、「スニーカーの選び方が分からない」という漠然とした悩みから一歩踏み込み、「ソールが厚いスニーカー」という明確な目的を持つあなたのために、その魅力と選び方を徹底的に深掘りします。なぜこれほどまでに厚底は人を魅了するのか。どんな種類があり、どう履きこなせばその他大勢から一歩抜け出せるのか。
前回の「メンズスニーカー完全ガイド」がスニーカーの世界全体の地図だとしたら、今回は「厚底」という注目のエリアを拡大した詳細なマップです。重複する情報を避け、厚底ならではの視点だけで構成しました。さあ、あなたのスタイルを数センチ底上げする、最高の一足を探す旅を始めましょう。
厚底スニーカーがもたらす3つの「スタイルアップ効果」
厚底スニーカーの魅力を語る上で、その視覚的な効果は外せません。単にボリュームがあるだけでなく、履く人のスタイルに明確なメリットをもたらします。
1. 物理的な身長アップ効果
最も直接的で分かりやすいメリットです。モデルによっては3cmから5cm以上も身長を高く見せることができ、それに伴い脚も長く見えます。この効果は、特にワイドパンツやロング丈のボトムスが主流の現代において、全体のバランスを整える上で非常に有効です。
2. 全身のシルエット補正
トップスにボリュームのあるオーバーサイズの服を着た際、足元が華奢だと全体のバランスがアンバランスに見えがちです。ここに厚底スニーカーを合わせることで、足元にも適度な重みが生まれ、全身のシルエットが安定します。いわば、ファッションにおける「土台」の役割を果たしてくれるのです。
3. コーディネートの主役になる存在感
シンプルな服装でも、足元に個性的な厚底スニーカーを一つ取り入れるだけで、コーディネート全体が一気に格上げされます。靴が主役になることで、他のアイテムはシンプルにまとめても「お洒落に気を使っている」という印象を与えることができるのです。
デザインで選ぶ、厚底スニーカーの3大潮流
「厚底」と一括りに言っても、そのデザインは様々です。ここでは、現在のトレンドを形成する代表的な3つのスタイルをご紹介します。それぞれの特徴を理解し、自分の目指すファッションの方向性と照らし合わせてみてください。
スタイル1:ダッドスニーカー(チャンキースタイル)
厚底ブームの火付け役であり、今や定番となったスタイルです。「お父さん(Dad)が履いていそうな、野暮ったくてゴツいスニーカー」が名前の由来ですが、そのボリューム感が逆に新鮮でお洒落だと再評価されました。複数のパーツが複雑に組み合わさったアッパーデザインと、彫刻的なミッドソールが特徴です。
スタイル2:プラットフォームソール
ダッドスニーカーよりも、ソールがフラットで均一な厚みを持つのがプラットフォームソールの特徴です。元々はレディースで人気のスタイルでしたが、近年メンズにも浸透。コート系スニーカーなど、元々シンプルなデザインのモデルをベースにしていることが多く、クリーンでモードな印象を与えます。
スタイル3:マキシマリスト・ランニング
「最高のクッション性」を追求した結果、極端に分厚いソールを持つに至ったランニングシューズのスタイルです。元々はシリアスなランナー向けでしたが、その独特な見た目と卓越した快適性からファッションアイテムとして注目されるようになりました。機能美と未来的なデザインが融合した、今の空気感を最も象徴するスタイルの一つです。
【スタイル別】今選ぶべき厚底メンズスニーカー名作選
それでは具体的におすすめのモデルを見ていきましょう。ここでは、前回の記事では紹介していない、厚底という文脈でこそ語るべき珠玉のモデルたちを厳選しました。
ダッドスニーカーの名作たち
BALENCIAGA – Triple S / Runner:ダッドスニーカーブームをラグジュアリーの世界から牽引した象徴的存在。3層構造の複雑なソールを持つTriple Sや、よりランニングシューズに近いデザインのRunnerは、他の追随を許さない圧倒的な存在感を放ちます。
New Balance – 9060:ブランドの990番台と860番台という、2つの名作を掛け合わせて生まれたハイブリッドモデル。過去と未来が融合したような独特のデザインと、ボリューム感のあるソールが特徴で、現在のストリートシーンで絶大な人気を誇ります。
ASICS – GEL-NYC:アシックスの過去のアーカイブから複数のモデルのデザインを抽出し、現代的に再構築した一足。Y2Kの雰囲気を感じさせるテクニカルなアッパーと、安定感のある厚底ソールの組み合わせが魅力です。
プラットフォームソールの注目株
PUMA – SUEDE XL:プーマの永遠の定番「PUMA SUEDE」を、スケートボードカルチャーの視点で大胆にボリュームアップさせたモデル。太いシューレースと厚タン、そして分厚いプラットフォームソールが特徴で、クラシックな見た目ながら強い個性を主張します。
adidas – ADI2000:2000年代初頭のスケートシューズにインスパイアされた、ボリューム感あふれる一足。チャンキーなシルエットながら、ソール自体は比較的フラットなため、プラットフォーム的な履きこなしが可能です。
マキシマリスト・ランニングの代表格
HOKA – BONDI 8 / CLIFTON 9:このカテゴリーを語る上でHOKA(ホカ)は外せません。ブランドの象徴である極厚ソールは「マシュマロ」と形容されるほどのクッション性を誇ります。BONDIは最もソールが厚いモデル、CLIFTONは軽量性とのバランスに優れたモデルとして人気を二分しています。
On – Cloudmonster:スイス発のパフォーマンスブランドOn(オン)が生み出した、まさに「モンスター級」のクッショニングモデル。空洞のパーツが連なる独自のソール形状「CloudTec」を過去最大級に搭載し、見た目のインパクトと快適な履き心地を両立させています。
OOFOS – OOriginal:厳密にはスニーカーではありませんが、厚底トレンドを語る上で欠かせないのが「リカバリーサンダル」です。OOFOSはその代表格で、特殊素材OOfoamによる衝撃吸収性は、一度履くとやみつきになります。夏場のファッションの外しとして絶大な人気を誇ります。
厚底スニーカーを履きこなすためのスタイリング術
個性的な厚底スニーカーは、ただ履くだけではその魅力を最大限に引き出せません。ここでは、スタイルアップ効果を高め、お洒落に見せるための簡単なコーディネートのコツを伝授します。
ボトムスは「ワンクッション」か「アンクル丈」で
ワイドパンツやカーゴパンツなど、太めのボトムスを合わせる場合は、裾を靴に少したるませる「ワンクッション」がおすすめです。靴とパンツが自然につながり、脚長効果が際立ちます。逆に、細身のパンツやテーパードパンツを合わせる場合は、くるぶしが見える「アンクル丈」を選びましょう。足元がすっきりと見え、スニーカーのデザインを主役として引き立てることができます。
「ソールの色」を拾ってコーディネートを組む
厚底スニーカーはソール部分の面積が大きいため、その色がコーディネートに与える影響も大きくなります。最も簡単なテクニックは、ソールの色(特にアクセントカラー)を、Tシャツやキャップ、バッグなどの小物で「拾う」ことです。これにより、コーディネート全体に統一感が生まれ、まとまりのある上級者のようなスタイリングが完成します。
結論:自分をアップデートする「高さ」を手に入れる
厚底スニーカーが提供してくれるのは、単に物理的な数センチの高さだけではありません。それは、新しい視点であり、新しいバランス感覚であり、そして新しい自分に変わるための自信です。
今日ご紹介したモデルやスタイルの知識は、あなたにとっての羅針盤です。しかし、最終的にどの道を選ぶかは、あなた自身のスタイルと感性が決めます。大切なのは、食わず嫌いをせず、まずは一度足を入れてみること。鏡の前に立ち、全身のバランスがどう変わるかを確認してみてください。