なぜVANSのスニーカーは、ボロボロになってもカッコいいのか?
太陽が照りつけるカリフォルニアの乾いたアスファルト。スケートボードに乗り、ストリートを自由に駆け抜ける若者たちの足元には、いつも同じブランドのスニーカーがありました。擦り切れ、色褪せ、ボロボロになるまで履き込まれても、なお失われることのない、むしろ増していくその魅力。それこそが、VANS(ヴァンズ)というブランドが持つ、唯一無二の本質です。
VANSは、単なるスニーカーブランドではありません。それは、60年代のカウンターカルチャーの中から生まれ、スケートボード、サーフィン、パンクロックといった、既成概念を壊そうとする若者たちのエネルギーと共に育ってきた、ストリートカルチャーそのものの結晶です。この記事は、そんなVANSの「OFF THE WALL(一風変わった)」というスローガンに込められた反骨精神と、その魂を宿した伝説的なモデルたちを、最大限のリスペクトを込めて解説するものです。
すべてはここから始まった。VANSを象徴する「5つのアイコン」
VANSの歴史は、この5つのモデルと共にあります。似ているようで全く違う、それぞれの個性と物語を知ることが、VANSを深く理解するための第一歩です。
1. AUTHENTIC(オーセンティック):すべての原点
1966年、VANSが「ヴァン・ドーレン・ラバー・カンパニー」としてカリフォルニア州アナハイムに誕生した際に、最初に作られたモデル「#44」。それが現在のAUTHENTICです。履き口にパッドもない、極めてシンプルなキャンバススニーカーですが、その頑丈な作りと、スケートボードのデッキをしっかりと掴む「ワッフルソール」が、当時のスケーターたちの間で瞬く間に評判となりました。全てのVANSの物語は、この一足から始まっています。
2. ERA(エラ):スケーターによる、スケーターのための改良
AUTHENTICを愛用していた伝説のスケーター、トニー・アルバとステイシー・ペラルタ。彼らが「もっとスケートに適した靴を」と、履き口にパッドを入れ、耐久性を高める改良を提案して生まれたのが、ERA(#95)です。AUTHENTICと比べ、少しだけボリュームがあり、より足をしっかりとホールドしてくれます。「AUTHENTICか、ERAか」。これは、VANS好きにとって永遠のテーマです。
3. OLD SKOOL(オールドスクール):アイコン「ジャズストライプ」の誕生
1977年に登場した「#36」、現在のOLD SKOOLで、VANSは初めてサイドにラインをあしらいました。創業者が描いた落書きから生まれたこのラインは、「ジャズストライプ」と呼ばれ、今やブランドの象徴となっています。また、つま先部分にスエードを採用し、耐久性を高めた初のモデルでもあります。そのクラシックなルックスは、あらゆるストリートスタイルにマッチします。
4. SK8-HI(スケートハイ):足首を守るという革命
1978年、OLD SKOOLをベースに、スケートボードが足首に当たって怪我をするのを防ぐために開発されたのが、VANS初のハイカットモデル「#38」、現在のSK8-HIです。バスケットボールシューズが主流だったハイカットの世界に、スケートボードというストリートの視点を持ち込んだ、革命的な一足。その骨太なシルエットは、足元に圧倒的な存在感を与えます。
5. CLASSIC SLIP-ON(クラシック スリッポン):究極のイージーライダー
靴紐を結ぶ手間すら不要とした、究極にシンプルなスリッポン(#98)。BMXライダーやスケーターたちの間で人気を博していましたが、1982年の映画『初体験/リッジモント・ハイ』で主演俳優が着用したことで、その人気は全世界的なものとなりました。特に、白と黒の「チェッカーボード」柄は、ブランドの反骨精神を最も象負徴するデザインです。
知る人ぞ知る、もう一つのVANS「Vault by Vans」とは?
VANSには、通常のラインとは一線を画す、「Vault by Vans(ヴォルト・バイ・バンズ)」というプレミアムな限定ラインが存在します。これは、VANSが持つファッション性をより高めることを目的に、世界中の限られたセレクトショップでのみ展開されています。70〜80年代のUSAメイド時代のディテールを忠実に再現した「OG」シリーズや、ハイブランドや気鋭のアーティストとのコラボレーションモデルなど、よりコアでファッション感度の高い層に向けた、特別なコレクションです。
VANSを履きこなすということ
VANSのスニーカーを履きこなす上で、最も重要な心構え。それは、「綺麗に履こうとしない」ことです。もちろん、最低限の手入れは必要ですが、VANSの本当の魅力は、履き込んで、汚れて、少し破れてきた時にこそ現れます。キャンバスの色が褪せ、ソールのゴムがすり減り、シューレースが毛羽立ってくる。その全てが、あなたがストリートで過ごしてきた時間の証となり、世界に一足だけの、あなただけのヴィンテージスニーカーへと育っていくのです。
結論:カリフォルニアの太陽と自由の匂いを、その足元に
VANSを選ぶことは、単にスニーカーを選ぶことではありません。それは、カリフォルニアの太陽の下で生まれた、自由で、創造的で、少しだけ反抗的な、ストリートカルチャーそのものを自分のスタイルに取り入れるという意思表示です。
高価なスニーカーを丁寧に履くのも一つの価値観ですが、VANSのタフなスニーカーを、何も気にせずガシガシと履き潰す。そんな付き合い方が許されるのも、このブランドならではの魅力です。この記事が、あなたがVANSというブランドの持つ、飾らない本質的なカッコよさに気づく、きっかけとなれば幸いです。