「エアジョーダン1」だけが、エアジョーダンではない。
スニーカーの歴史を一つの壮大な物語とするならば、その主人公は間違いなくMichael Jordan(マイケル・ジョーダン)であり、彼のために作られたNIKE(ナイキ)の「AIR JORDAN(エアジョーダン)」シリーズです。しかし、多くの人にとって、エアジョーダンとは、あのあまりにも有名な「エアジョーダン1」を指す言葉になってはいないでしょうか。もちろん、それは偉大な物語の輝かしい序章です。しかし、その先には、さらに豊かで、刺激的な数々の章が続いているのです。
この記事は、「エアジョーダン1しか知らない」という状態から一歩踏み出し、その背番号のように続く奥深いナンバリングモデルの世界を探検するための、専門的なガイドブックです。それぞれのモデルに宿るデザインの革新、ジョーダンのキャリアと同期する物語。その壮大な歴史を知れば、あなたはきっと、自分だけの特別な一足を見つけ出すことができるでしょう。
エアジョーダンの世界を知るための基礎知識
膨大なシリーズを理解するために、まずはジョーダンシリーズならではの「お作法」を知っておきましょう。
1. 「オリジナル」と「レトロ」:知っておくべき最大の違い
「オリジナル」とは、そのモデルが最初に発売された当時の個体を指します。一方、私たちが現在ショップで目にするもののほとんどは「レトロ」と呼ばれる復刻版です。レトロは、オリジナルのデザインを忠実に再現しつつ、現代の技術で履き心地などが改良されている場合もあります。
2. 「ナンバリング」:モデル名に刻まれた歴史
エアジョーダンは、ジョーダンの現役時代から続くメインシリーズが、「1, 2, 3…」とナンバリングで展開されています。現在では30番台後半にまで至りますが、ファッションシーンで特に人気が高いのは、彼がシカゴ・ブルズで活躍した時代の初期〜中期のモデル、特におおよそ「1」から「13」あたりです。
3. 「カット」:High, Mid, Lowそれぞれの立ち位置
特にエアジョーダン1に顕著ですが、同じモデルでも足首の高さによって「High」「Mid」「Low」の3種類が存在します。オリジナルに最も近い形状で、ファンからの評価が最も高いのが「High」。生産数が多く、比較的手に入れやすいのが「Mid」。そして、軽快なスタイルに合うのが「Low」です。それぞれに異なる魅力があります。
【番号別】大人が選ぶべき、伝説のエアジョーダン名作選
それでは、数あるナンバリングモデルの中から、特に大人の男性が知っておくべき、歴史的にもデザイン的にも重要なモデルを厳選して紹介します。
すべてはここから始まった:Air Jordan 1
1985年、常識破りの新人、マイケル・ジョーダンのために作られた初代モデル。当時NBAの規約で禁止されていた「黒と赤」のカラーを纏い、罰金を払いながらも履き続けたという「BANNED」の逸話は、このスニーカーを単なるバスケットボールシューズから、反骨精神の象徴へと昇華させました。全ての伝説の始まりであり、今なお最も多くの人々を魅了する不朽の傑作です。
ラグジュアリーへの挑戦:Air Jordan 2
ナイキの象徴であるスウッシュロゴを廃し、生産はイタリアで行うという、前代未聞のコンセプトで作られた2代目。その高級路線は、当時は受け入れられませんでしたが、近年、その洗練されたデザインが再評価されています。他人とは違う、通好みな一足を求めるなら、非常に面白い選択肢です。
天才デザイナー、ティンカー・ハットフィールド登場:Air Jordan 3
ナイキを離れる寸前だったジョーダンを、その革新的なデザインで引き留めたという逸話を持つ、シリーズの転換点。初めて「ビジブルエア」と、今やジョーダンブランドの象徴である「ジャンプマンロゴ」を搭載し、踵部には高級感のある「エレファント柄」を採用。ここから、天才デザイナー、ティンカー・ハットフィールドとの黄金時代が始まります。
ハイテクとストリートの融合:Air Jordan 4
アッパーサイドのメッシュパネルや、フィット感を調整するためのプラスチック製のアイレットパーツなど、よりハイテクで先進的なデザインが特徴の4代目。その機能的なルックスがストリートファッションと見事に融合し、歴代屈指の人気を誇ります。様々なブランドとのコラボレーションモデルも多く、常に高い注目を集めています。
戦闘機から着想を得たデザイン:Air Jordan 5
第二次世界大戦中の戦闘機「P-51マスタング」からインスピレーションを得た、攻撃的なデザインが魅力の5代目。ミッドソールの「シャークトゥース(サメの歯)」デザインや、シリーズで初めて採用されたクリアソール(透明な靴底)が特徴です。人気漫画「スラムダンク」で流川楓が着用したことでも知られています。
栄光の初優勝を支えた一足:Air Jordan 6
ジョーダンが念願のNBA初優勝を成し遂げた際に着用していた、メモリアルな一足。素足に近い感覚を求めるジョーダンの要求に応え、フィット感を向上。踵のスポイラーのようなヒールタブや、幾何学的なアッパーデザインが、スポーツカーのようなスピード感を感じさせます。こちらも「スラムダンク」で桜木花道が最初に履いたバッシュとして、日本では特別な人気を誇ります。
結論:自分だけのジョーダンを見つけるために
エアジョーダンは、単なるスニーカーのシリーズではありません。それは、マイケル・ジョーダンという一人のアスリートの成長と栄光の軌跡を、デザインという形で記録した、壮大な年代記(クロニクル)です。
伝説の始まりである「1」を選ぶのか、デザインの革新が起こった「3」を選ぶのか、あるいは自身の青春時代の思い出と重なる一足を選ぶのか。その選択は、あなた自身の価値観や物語と深く結びつきます。この記事を参考に、ぜひ様々なナンバリングモデルを調べてみてください。きっと、エアジョーダン1しか知らなかった頃よりも、スニーカーの世界が何倍も面白く、魅力的に見えてくるはずです。